国策としての社内ベンチャー促進:後編

社内ベンチャーとは、一体どのようなものなのでしょうか?

グロービスのサイトから引用すると、次のような定義になるそうです。
「大企業内で、あたかも独立企業のように新規事業を実施する部門や組織集団(社内企業家的集団)を作り、その自主的な新事業創造の活動を、本社が全面的にバックアップしていく組織のこと。(中略)、1)新規事業への進出 2)チャレンジ精神を持つ人材の育成 3)社内の既存資産の有効活用などの目的で、社内ベンチャーが実施される。」

見ていただくと分かるとおり、今の「社内ベンチャー」は、全てその企業の裁量や問題意識によってのみ行われるという事が出来ます。言い換えれば、本業でうまくいっている会社がする必要はないし、何か国や公的機関からの援助があるわけでもありません。ですから仮に成功したとしても、自社の事業ポートフォリオに組み込んでいい。この点で、「これまでとちょびっと担当を替えた商品企画」ということも出来るかもしれません。

勿論、これを否定するつもりはないのですが、産業界をもう少し大きな目で見てみると、日本の大企業はその責任を全うできていないのでは?と言いたくなるような(大企業に起因する)社会・経済問題があります。

・「優秀な人材は企業側に多く雇われており、その殆どは副業禁止であること」
・「一方で、若手等の採用は経済情勢や利益を理由に抑えられがちであること」
・「自社の事業ドメイン以外の事業や、規模感の合わない事業(例えば1兆円企業で年商3億円のサービス事業など)は実行させない」
・「本業の儲け部分について、事業への再投資や乗数効果の薄い利益配分がなされてしまう(株式持合い先への配当など)」

こうしたことは経済・雇用的に大企業が起こす一種の社会的な非効率なようにも思えます。

日本がイノベーションをもっと促進させる、起業を増やし雇用を増やしていく。優秀な人材が自信を持ってビジネスや社会課題に取り組む...
そのためには、日本のリスク観にあったアントレプレナーシップの拡大が必要かと思います。国家として、「社内ベンチャー」を促進させていこうと言う考え方、つまり『イントレプレナーシップの国策(官民一体)化』というものでしょうか。


先ず、大手企業は「社内ベンチャー制度」を設けることを努力義務化します。これは、自社の新規事業開発の仕組みを少し変えれば良いわけですし、すでに取り組んでいる会社も多いでしょうから、大企業にとってそんなにハードルの高い話ではないと思います。
この社内ベンチャー制度は、自社の事業ドメインと関係ない事業になる場合に、安易に事業案を却下するのではなく、カーブアウトにより事業化をサポートするようにすることで、「切り出し」を容易にします。これに政府としては補助金を交付するなどして応援する。こういう仕組みによって、社内ベンチャーからの起業にも国が資金的サポートを行うのです。これは社内ベンチャーの母体となる大企業にもメリットがあるでしょう。
もう一つ、もしも社内でそのまま事業化する場合にも、それにより新しい雇用・採用が発生する場合には補助金を交付するなどの制度にします。
これにより、社内ベンチャーは、その母体となる企業と国や地方公共団体の両方が、態様に合わせてバックアップできるようにするのです。つまり、起業のリスクは母体となる企業と国がファイナンシャルリスクを一部負担する考え方です。

もう一つは、起業を支援する側(支援者)についてです。一般的な起業ではVCからのハンズオンやコンサルタントなどが支援者となる場合がありますが、このコンサルタントのフィーも結局は、起業者の経費やリスクマネーになるケースが多いようです。
そこで、このコンサルティングやハンズオンについてはメニュー化して、日本に多くおられる有識者やコンサルのプロボノ団体が行うのです。勿論、こうしたベンチャーや中小企業向けの有料コンサルティングで優良なものは多く存在しますが、資金の乏しいベンチャー(社内外を問わず)については、一定期間を無償で行うボランティアサービスも必要です。
そしてこうしたプロボノの団体については、企業の寄付(ドネーション)や一定期間無償後の有料コンサル等の収入で実施されるのが良いと思います。大手企業のドネーションだけだと大手企業の社内ベンチャーを支援するだけになりますので、様々な資金を寄付で調達するNPOやLLP等の組織で運営するのが良いかもしれません。

手法の一つ一つには精査と工夫が必要ですが、私は起業家に、事業リスクとファイナンシャルリスクのすべてを負わせる構造ではどんなにきれいごとを並べても、少なくともこの国では、リスクテイクして起業するケースは減り続けると思います。
国として官民が持てるものを持ち寄り一体となって、ベンチャーのみならず社内ベンチャーをもドライブさせることにより、20年間逆転している開発業率(廃業が開業を上回っている状態)を正常化して雇用を増やすことが、社会や経済にとってより大きな貢献を生むと思います。

日本に根本的なベンチャー政策が必要と叫ばれて久しいですが、社会や経済のマクロ側面を考えたときには、起業家だけにリスクを負わせる形ではなく、「小さく生んで大きく育てる」仕組みが必要なように思います。
少人数のヒーローを作りたいがためのベンチャースキームは、「美談を生んでも、雇用は生まない」と思います。