「温泉ダイアローグ」がそれでも必要なワケ

僕は、これまでいくつかのワールドカフェやダイアローグイベントを主催してきました。またそれ以上にそうしたイベントに参加したり、ファシリテーションもしてきました。

少し前、ある人と話していて、「もうこれまでのような、ゆるーい話し合いの場、ぬるい温泉につかるようなダイアローグの場、って要るのかなぁ?」という問いに出くわしました。もちろん、僕への批判とかではなくて、むしろ自分自身のほうがこれはいつも問いかけていたことなんで、その意見には思わず同調したくらいです。

何も生まれない、ただ名刺交換したりするだけの、異業種(異企業間)交流のようなダイアローグ。
本当にそれって意味があるのかと。
それ以来、この「温泉ダイアローグ」が常に頭から離れなくなってしまったのです。

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少し話は変わりますが、2020年問題というのはご存知でしょうか?
2000年問題以降、バズワード化した感がありますが、この2020年問題は、主に企業人事の話です。
大企業においては、バブル入社世代と、団塊ジュニア世代がボリュームゾーンになっているのですが、これが2020年あたりに50-55歳になることで、企業の人件費が頂点を迎えるという話です。別に、これに対して企業がただ単に覚悟し耐えようとするだけならば、そこには特に大した問題も起こりません。

しかし、実際には、隔たりのある世代間の人数調整のも含め、ここに向かって企業のリストラが始まりつつあります。「追い出し部屋」や「退職勧奨」「社内失業」は、実はその予兆です。
企業は、2020年になる前にできる限り人件費を圧縮したいと考えるはずですから、これからこの世代のリストラ策は全大企業で加速していくと思われます。

こうした時代に、バブル世代や団塊ジュニア世代はどのような心構えでいる必要があるでしょう?

私は、これは残念な意見かもしれませんが、すべてのバブル世代や団塊ジュニア世代などの“ボリュームゾーン層”が会社に「しがみつく」のは無理だと思います。
しがみつくのが悪いわけではないですが、それで貴重な人生を無駄にする可能性も考慮すべきです。お金のために、自分の職業キャリアを殺して単純作業を繰り返したり、自分のアイデンティティを完全に職場で亡くし、ひどい場合には心の病になってしまったりします。そうしてまで会社にしがみつくのは、果たして人生としてどうかなと思うのです。

さりとて転職活動は簡単ではありません。50歳で要求されるスキルや経験は要求水準が非常に高く、もともとそういうスキルや経験が自社で作れるなら転職なんて必要ない人を募集しているかのようです。

ですから、そう考えるとやはり「自立すること」しか選択肢がなくなります。シニア起業がブームですが、裏にはそういう背景があります。
もちろん、起業も簡単ではありません。そもそも起業するためのアイディアなんて考えたこともありませんから。会社で起業アイディアを考える機会は、おそらく「社内ベンチャー制度」に応募するときくらいでしょうけど、それを経験した人も、それが受理された人も、非常に少ないと思います。
自分は自社以外で活躍できるのか、転職はできたけど自分のスキルが果たして起業に向いているのか?
それにはもう一度キャリアやスキルの再セットが必要になりますし、マインドも変えなくてはいけません。
しかしそれでも、企業を追い出されるならば何か仕事をせねばなりません。すでにサバイバルの様相を呈しているのです。
したがって、好むと好まざるにかかわらず、シニア企業はここ数年でかなり本格的にメジャーな社会の動向になっていくことは間違いありません。

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このような時代に、何が必要になるでしょうか?それは、人脈というか、ゆるいネットワーク形成だと思っています。

個人がビジネスを始めていく時代になれば、脳の神経細胞のように結びつくことができる相手(細胞)が多いほうがビジネス活動が活性化するでしょう。
つまり、そこでは“ゆるい知り合い”のネットワークが必要になります。
できれば、ただ名刺交換しただけではなく、特定テーマでのダイアローグの場で知り合い話し合った人、その後facebook等のsnsで友人になった人、等が思わぬ形でビジネスパートナーになったりする可能性があるのです。

考えてみれば、企業にいるときも、ネットや展示会で商材見ていきなり発注することはそんなに多くはありません。
一度は営業マンを呼び、また営業も担当者だけでなく、偉い方も含め複数が同席して、何度か話し合いの末ビジネスを決定することが多いと思います。
ビジネスの成立にコミュニケーションは最初から不可欠なのです。

スモールビジネスのように、個人と企業が未分離な状態なら、なおさらこの“探索”作業はより重要になります。「彼はいい仕事するけどお友達にはなりたくないからビジネスは一緒にはできない」「お友達としてはいいけど、彼女のサービスは必要ない」というようなことが日常的に起こるからです。極大化した売り上げや利益を求める必要がなくなれば、ビジネスにもこうした個人の「感想」「感覚」が入り込みます。しかも、それはある日何かのきっかけを境に突然変化することだってあります。

そんな時代には、「温泉ダイアローグ」のようなゆるーい交流の場で、多くの知り合いがいる方が結果的には起業機会を増やしていくのではないかと考えます。
結局ビジネスは、起業しようがしまいが“一人ではできない”のは同じだからです。たくさんの知り合いやネットワークがビジネスの成功には必要です。


そうして考えていくと、これからの時代に「温泉ダイアローグ」は必要な場になるんじゃないかと思います。
具体的なアクションやアイディアを求める、ハッカソンやフューチャーセッションはもちろん大切ですが、一方ではこうした「温泉ダイアローグ」もあってよいと僕は思っています。