法人税減税の効果を考える!?

 尖閣の問題などで、ここのところ少し取り沙汰されるケースも減っている法人税減税の問題について、現在(11/14)時点では、来年5%の引き下げで政府税調が最終調整に入ったと報じられている。
http://bit.ly/9GNogX
 理由としては、記事にもあるとおり、①企業の投資増大を促すこと、②日本は法人税が高税率であること、③各国も減税の方向で動いていること、などが上げられる。

 本当にこの減税がマクロ経済的に効果があるのかどうかが気になる。自分は支持政党も特になく労働組合とか●●会などにも一切所属していないので、政治的なイデオロギーはない。(強いて言うなら、今の外相とは同じ学習塾の出身→でも向こうは先輩くらい。笑)

 税率や国際競争についての問題はさておき、まず経済界の諸団体が言うところの「減税による(設備)投資の強化」について、本当にそうなのか、疑問が残る。経団連は9日に「法人税減税が実現した場合、2020年までには104兆円の民間設備投資を創出する(目標)」と言っている。
http://s.nikkei.com/cOfE9z
 減税分は雇用や投資にまわすことで経済にも貢献できる算段である、というのが財界の主張である。
 
 だかこれは正直、本当なのであろうか?
 専門的で詳細な分析はほかに譲るとしても、個人的には正直疑わしいと思っている。

 なぜ、そう思うのかというと、非常に単純な理屈かもしれないが、企業会計、特に損益計算書などや税務会計の構造の問題からみて、法人税減税は、配当の増加、役員報酬の増加、に一番大きな効果がありそうに思うからである。
 そうなれば、マクロ経済的に見れば役員報酬の増加や配当金の増加はその数や性質から、乗数効果が働きにくいところへの分配となるため経済効果もそれほど期待できない。つまり、政府の最終目的である景気対策には貢献しないのである。

 自分も一応企業で経営企画など行っているので大体イメージができるのだが、通常、企業は売上高予算を様々なファクターで計算して、それに見合うコストを予算立てする。これにより目標利益を設定する(実際には、目標売上や利益水準からコストを予算配分するケースが一般的)。また雇用、つまり人件費についても退職者などとの兼ね合いを計算し、何名の雇用=人件費の増減を事前に計算しているのが普通である。つまり、投資計画も雇用計画もすでに期初に決定するものである。

 モノの売買や輸入によって都度発生する消費税とは異なり、法人税は当期の実績(儲け)部分に課税されるものであるが、これは端的に言えば当期が終了したときに初めて計算できるものである。
 損益計算書を見ればそのプロセスが分かりやすいが、企業は当期の売上から、先ず売上のために直接かかったコスト(売上原価)を引き粗利益を計上し、次に人員や間接費用などを引いて、営業成績である営業利益を算出する。この営業利益から本業とは関係のない利息の受取りや支払い分、為替の差損などを計算して経常利益を出し、さらにそこから当期の特別の損益をプラスマイナスして最終的に「税引前当期利益」となる。
 多少の税法と計算は異なるが、この「税引前当期利益」から法人税が決定される。
>損益計算書
http://bit.ly/98prZO
 
 このように見ると、法人税は「当期の活動の結果」から計算されるものであることが分かる。

 いくら計画重視の企業であっても、実現予定(あくまで未定)の利益から軽減される部分の法人税を計算して、それを期の頭に投資や雇用で追加予算を行うなどしないだろう。仮に自分の勤務先でその計画を立てたら、おそらく役員は否決するだろう。まさに、「捕らぬ狸の皮算用」とはこのことである。
 
 また、税引後の利益の処分については、基本的には、①株主に配当、②役員報酬、③準備金など繰越、の三つとされているが、06年の会社法改正により利益処分計算書が廃止され、「株主資本等変動計算書」となっている。
http://kessansyo.com/kaisyahou-hendou.html

 これを見ると分かるとおり、利益処分の方法は上記3つはそのままなのだが、近年はより株主への政策が重要視されるであろうし、仮に準備金勘定としても、来期の投資に回るとはいえない。おそらく来期の投資に関する変数は、ここでの「準備金への繰越」ではなく、全く別の決算書にあるキャッシュフローの状況にほかならない。
 

 以上、企業の実務から考えて、決算書を意思決定の指針としている以上は、減税部分を投資や雇用にまわすことは先ず考えにくいと思う。「捕らぬ狸の皮算用」や「株主」や「役員」への報酬が諸外国より低いといわれる日本で丸々内部留保に増額する、ということは先ず考えられない。
 それでも経団連などがあくまでも減税部分を投資や雇用に回すというなら、(税引後)当期純利益の○%は、雇用や投資にまわす等の時限立法措置も追加して提案してみればよいかもしれない。
 
 個人的には...

 法人税課税できない(つまり赤字)7割の企業に対し、黒字化できるような企業支援対策が先決だろうと思う。