知識専門職(ナレッジワーカー)への内部統制

 大阪地検の捜査資料改ざんの疑いのニュースが連日紙面を賑わしている。法曹三者といわれる検察機関の信用失墜は、様々な意味で社会的注目度が高い。
 検察官は元々は司法試験の中でも成績優秀者でないとなることができないとされており、裁判官と同様、司法試験の成績等加味して、毎年100人程度の採用と言われている。司法試験の制度改変により、試験制度は少々易化したと言われているが、今回逮捕された検察官は旧制度の超難関を合格したエリートであり、言い換えれば、知識専門職つまり「ナレッジワーカー」とも言える。
 その意味で、今回の事件は、高度専門職(ナレッジワーカー)への内部統制が問われているということもできるかと思う。
 
 少し話は変わるが、以前、知人が勤務する企業で組織変更が行われた。当時、知人は経営企画部門に所属していたが、同じ本部の中に社内の内部統制を管轄する監査部門があった。彼はこの組織編制には疑問であった。内部統制を行う監査部門がどこかの部門にぶら下がっているのは監査の独立性を阻害すると思っていたためである。そして全体の組織図から浮かび上がってきたのは、経営企画部門及び同本部にある人事部門は、内部監査の対象外とされていたことであった。

 これに少し違和感を持ったため、彼は監査部門に聞いてみることにした。「私(の部門)は監査対象としなくて良いのですか?監査できない部門があるのは監査の独立性を妨げてはいないのですか?」
 彼が期待していた回答は、「内部監査部門としてもこの組織図には納得していない。監査の独立性を固持したいが、TOPの意向で(組織図上では)やむを得ない。だが内部監査部門としての独立性は担保できるように特別扱いをせず、監査業務をしたい」という回答であった。

 だが、意外にも回答は、「なんで?これで良いんじゃない?経営企画や人事はTOPの意向を具現化するための組織だからそもそも監査の必要はないでしょ?組織図で決定したことを今更覆すなんてできない。」というものであった。監査について学んでいるところであった知人はその回答に少し唖然としたらしい。「監査の独立性までも上役の意思次第なのか」と。

 その後、彼の所属する経営企画部門は、機能低下が著しく、内部問題も起こって一時は解散の危機まで陥ったと聞いた。また業績が厳しいにもかかわらず何ら抜本的な対策をリードすることもできておらず、社内の他部門からも批判の対象となったり存在感をなくしているらしい。
 監査管轄外であることと直接関係があるかどうかは不明だが、明らかに内部の自浄作用が働いていないと知人は語っていた。
 

 高度な知識専門職は、かなり以前よりその社会的な影響力を増している。社会だけでなく、これはあらゆる組織及びそのステークホルダーにおいて同様である。このような知識専門職(ナレッジワーカー)が、適切に機能し社会に貢献していくためには、その活動を担保するための内部統制の仕組みや外部監査的な仕組みが求められていると感じる。

 もちろん、高度な知識専門職は、その過程で気の遠くなるような知識や知恵を理解・体得し、同時に強い倫理観を持たなくてはならないよう、どのような専門職育成にもカリキュラムがあるものである。
 しかし、知識専門職になる教育過程のみでそれを課し、いよいよ一人前となり社会貢献する段階において、あるいはすでにその職務にあたっている状況において、内部や外部からの統制が甘くなるようであれば、社会からの期待や、本人たちのそれまでの多くの努力も含めて、水泡に帰すリスクを高めていることになる。この社会的損失はとても大きいものである。

 高度な知識専門職への内部統制の必要性は、知識社会の深化に伴い、増大しているのではないだろうかと感じている。