大企業の役割:(Open System Enterprise)

 ひょっとしたら似たようなことを書いている方がおられるかもですが、個人的意見として書きます。

 今、一応大手企業の関連企業で経営企画をしながら、他方では中小企業を相手にコンサルティングを無償(有償ってかくと副業なので:汗)で行おうと思っている自分から見ると、日本の企業のミスマッチ感がそのまま企業に勤める人たちの雇用や経済への閉塞感に繋がっているように感じることがある。

 大手企業は、統計上で企業間の差はあるが、輸出などで業績を回復させつつある一方で、採用や経費、或いは設備や研究開発投資等は以前と比較して旺盛とは言いがたく倹約路線を堅持している。
 他方、中小企業は、これまた統計上ではあるが、まだまだリーマンショック後の資金繰りが厳しく、受注や売上も完全に回復したとは言いがたい。
 更に、雇用は以前厳しく、大手の採用控えと中小企業の雇用ミスマッチ、また全体的な求人も伸びているようには感じない。

 このように企業を中心とする経済の全体的な閉塞感が否めないが、この起爆剤の一つとして、私は大手企業が自らをオープン化することである種の起爆剤を提供できると思っている。その一つが『社内ベンチャー制度の拡充』であり、そしてもう一つが、そのベンチャーを様々な形で支援する『プロボノ(※)活動促進制度』である。
プロボノ・・・http://bit.ly/bYnPWt
 
 大企業が新規事業を始めようとする際に、必ずと言っていいほど通過しなければならない関門の一つに、「事業計画の役員承認」がある。
 これは、新しい商品や事業のビジネスモデルを纏めて“事業計画書”として経営陣にその是非を伺う行為であるが、私の経験上、ここでボツになって、数年後あとから事業化(しかも他社に)された案件が多い。これは大手の研究開発やビジネスモデル企画担当者は少なからず感じた事があると思う。

 この(商品企画案を)ボツにする理由の中でこんなのが多い。
 「この企画、良いかも知れないんだけどね、事業規模が足りないんだよね。わが社では○○億円規模じゃないと事業化認定できないね。まぁ、アイディアは良いだろうから特許申請はしておけば?」
 特許は大体役員に言われる前に申請してるもんだけど、まぁそれは置いておいて、こういう話はとてももったいないと思ってしまう。
 
 勿論、全部とは言わないが、こういう「わが社では○○億円規模予定じゃないと事業じゃない」と言いつつ、アイディアを特許申請のみで事業化については先送りしたり否決することは、技術や技術者を“塩漬け”にすることに等しい。この塩漬けは、マクロ的に見れば新しい技術の製品化やビジネス化に貢献するスピードが遅れたり埋没するため、わが国の経済や技術の革新にとってはマイナスであると言わざるを得ない。つまり、自組織の利益追求を優先する行為が、経済の発展を阻害する結果になる可能性を孕んでいる。
 
 大手企業は言わば「日本経済の事業の苗床」として、新規事業を輩出していく義務を負うべきで、経団連なんか「法人税がどうの」「円高がどうの」と自分達の利益優先の発言をする前に、事業を生み出すこと、それによって経済を牽引する主導的役割を担うこと、にもっと注力すべきである。大企業がカーブアウトで新規事業を輩出することで、有能な社員が流出すると言う反論もあるだろうが、かといってそれを塩漬けされたら、人材も塩漬けになり、結局誰もハッピーにならないのである。
 
 しかしながら、そういう形で生まれてきたベンチャーは、通常のベンチャーや中小企業同様、資金繰りは厳しいものがあるし、様々な人材も不足している。大企業の社内ベンチャーとは言え、資金をいつまでもそこに投下できるほどの余裕はないかもしれない。

 そこで、必要なのはもう一つの役割、プロボノ活動促進の支援である。
 
 大企業に勤める社員が自身の業務上で得たスキルを無償でこうした中小のベンチャー企業に提供することはとても意義がある。しかも、上記のような社内ベンチャーへの支援であれば、サービスを受ける側も元々大企業の社員なので、意思の疎通も図りやすい。また、自社の社内ベンチャーを無償でサポートするとなれば、出資している元の大企業側も原則的にはありがたい話である。

 また、プロボノでスキル提供する社員側も、自身のスキルを社内以外に活用する場が出来ることで、逆に自身の専門性をより高めていこうとする気持ちが強くなる。
 元来、人は向上しないよりは向上した方が楽しいことを知っているものである。特に大企業の社員は自分の存在意義について深く考えるようになっている。仕事をすることで人や組織に貢献し感謝されるという実体験ができれば、世界最低とも揶揄される日本人の勤労モチベーションの改善にも役に立つかもしれない。
 また、ボランティアを進めていくうちに、アントレプレナーシップ起業家精神)を直に見ることが出来るため、その醸成にも役立つ。

 大企業は自社で保有する人材の持つアイディアやスキルを事業と言う形で広く社会に供給し存続を認められる、と言う形で社会と繋がっている側面がある。つまり企業は社会にとってのオープンシステムである必要があり、そうしたマインドセットを行って欲しいと考える。
 社内ベンチャーも元々は、社員のナレッジが生み出したアイディアであり、またプロボノで活用されるスキルも同様、社員が業務で得たナレッジである。これをただ、「自社のモノ」として所有して囲うのではなく、自社で活用しないモノはどんどん社会に輩出して行くべきである。今は企業のM&A等の法的に容易なことから、必要になればまた事業を買い戻したりもできるし、そういうベンチャーが集まって、大きな企業になり大きな雇用を生み出す可能性もある。

 大企業は、「自社が、自社で...」精神から離れ、オープンシステム化することで、社会や市場と共存すべきではないだろうか?企業は元々は社会の上に成り立っており、その社会から人に参画してもらって始めて体を成している。

 大企業がよく言うCSR(社会貢献活動)は、なにも大きな本社前の路上のごみ掃除をすることだけが能ではないはずだ。