プレイングマネージャー制など要らない

 当日記は、今現実にプレイングマネージャーとして活躍されている方に対し批判を申し上げるつもりでもありません。


 と前置きした上で申しますが、

 「プレイングマネージャー」という制度、もしくは慣習は、全面的に見直すべきと考えます。
 企業が「組織」として行動する場合、「プレイングマネージャー」という仕組みは何のメリットもなく、むしろ組織の生産性を低下させるものになります。

 以下、理由を挙げてみます。


●「プレイングマネージャー制」では、女性も若手も、また、一般社員も
 活用することが出来ない

 今後、労働人口は減少しつつあり、また多様なナレッジを活用する、という観点から見てもダイバーシティ対策は必要であり、とりわけ、女性や若手社員の活躍推進は、ミクロ・マクロ共に重要であります。
 
 先日、米国で行動分析学(心理学の一種)を学び、今行動科学マネジメント提唱者で活躍されている石田淳氏の講演を聞く機会がありました。
 同氏の話で、こんな比喩がありました。
 
◎泳げない人に水泳を教えるための手法:

 昔:とにかく一度川(プール)に突き落とす。
 今:水になれることから、顔つけ、バタ足、等段階を経て教える。
 
結果、
 
 昔:2割しか泳げるようにならない、
 今:ほとんどの人が泳げるようになる
 

 若年層や女性など、十分な経験の時間を積むことなく“第一線の活躍”を期待されている層から、「こういう場合はどうすればよいですか?」「どう考えるべきですか?」「○○って何ですか?」という質問が来るのは、実は当然です。
 その時に、「自分で考えろ」「仕事は盗め」などと、“川へ突き落とす”のは、間違いとは言いませんが、2割しか成長しなくて良い、というモデルにほかなりません。
 若手や女性が企業内でも減少している昨今、こうしたマネジメントは企業の生産性に影響し、将来の戦力を弱体化させています。
 
 また、たとえ普段は懇切丁寧なマネージャーでも、自らの仕事も多く抱え、時間的な余裕もない場合、どうしても懇切丁寧な指導は出来なくなります。
 
 ところが、特に若年層は、ゲームやケータイ、等レスポンスが早いほどよいモノやコトに慣れています。
(webのスピードが遅けりゃイラつきますし、結果が1時間後しか出ないゲームなんかしません。若い世代でメールの返事しないとイジメの対象になっちゃいます。)

 質問しても答えてもらえない場合には、質問をすること、あるいはその仕事を行う事自体が“弱化”されてしまうリスクを含んでいます。

 
●有能な社員までも「フツウの社員」としてしまうリスクがある。

 仮に上記のように、2割の社員は、「放っておいても上手に泳ぐ」とします。
 しかし、残念ながら「放置したまま」では、やはりその2割でさえさらなる成長はおぼつきません。

 アメリカの心理学者であるレヴィンは、リーダーシップには、「専制型」「民主型」「放任型」の三つの類型があるとし、その中で一番成果がでないのが、「放任型」だとしています。

 また、行動分析学の世界においても、この「放任」という反応は、行動を「消去」する要因としています。

 「出来る社員だから」「時間がないから」といって、放任すると、やがてはその行動は減り、いつしか「2割の」社員も成果が出なくなる可能性があります。

 「いつもいない管理職」に、苛立ちを覚えたことがある人もいるのではないでしょうか?


●管理職自体のパフォーマンスにも影響する。

 ・部下や同僚のコーチングをきちっとやり、監督しなさい!
 ・部下より困難な仕事を自ら担当し、成果を挙げ続けなさい!

 二兎追うモノは一兎も得ず、という気がします。
 「管理職」と書いて、“スーパーマン”とは読めません(笑)。

 管理職というのが“名誉職”だったのは、はるか昔のことだと思います。
ところが、今も昔もその選定方法は、「仕事が出来る人」です。
管理職の役割は変化しているのに、その選定方法が昔と変わらないと言うことに疑問を抱かずにはいられません。

 管理職には、コーチの役割が求められています。
 スポーツでのコーチは、自らのパフォーマンスと言うよりは、選手のパフ
ォーマンスを如何に最大化するかが求められます。
 コーチ兼選手は、選手であることで、他の選手のパフォーマンスを引き出すことができる場合に、兼務となります。

 多くの企業が、複線人事制度を設け、管理職と専門職を分けました。
「仕事が出来て、選手であることでパフォーマンスを出せる人」は名誉職である管理職ではなく、専門職として現役でその成果を出し続ける。
 一方で、そうした専門家を上手に動機付けし、成果を出せるよう支援することがコーチの役割です。
 複線人事制度とは、元来、こうした制度であるはずです。


 ただ、「人に厳しくあること」だけがマネジメントでは断じてなく、また組織のパフォーマンスを最大化する手法ではないと思います。

 成果を出す過程が「苦しみ」でしかないなら、その組織のパフォーマンスがどうなるかは、想像に難しくないでしょう。

 以上はあくまでも、浅学の小生の個人的な意見であります。