大企業病の合併症

 『大企業病』という言葉がある。
「我々は大企業病に罹っている」「大企業病から脱却しなければならない」などと、大企業の方のみならず、中堅企業の方でもそういう意見が聞かれる。
 
 大企業病の定義は、goo辞書によると、次のようなものらしい。

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大企業に顕著とされる,経営上の弊害行動の総称。責任所在の曖昧(あいまい)さ,意思疎通の不足,意思決定の遅さ,融通のなさ,現場の軽視,常識の欠如など。また,そのような弊害行動に対する危機感の欠如もさす。

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 確かに上記のような状態は、非常に拙い状態として誰しも理解されるのだが、実際には防止しづらい。
 実はそこには組織構造という前提から起こる、もう一つの「合併症」の存在があるように思う。
 
 それは、「部門による漸次的改善」ともいうべきものである。
 
 ハーバード大学のクリス・アージリス教授によれば、組織学習にはシングルループ学習とダブルループ学習があり、全社を「漸次的改善」、後者を「本質的革新」として、分けている。

 大企業病の一歩は、実は経営がどのような方向に行くべきなのか、本来各部門と吟味されるべきポイントが吟味されず、各部門とのコミュニケーションが“硬化”することから始まる。例えば、経営の指針が出ているが、中身は良く分からない、或いは当該部門には直接関係がないと思われる場合、部門が独自に「漸次的改善:シングルループ学習」に取り組むことが良くある。部門の長は、「とにかく会社のために何かをせねばならない」と思うあまり、経営の力点とは異なる、正しいが優先順位は低い活動に着手してしまうのである。
(例をいえば、企業が新しい技術革新を行うコトを主眼においているにも関わらず、販売部門が独自でSFAを導入する、等である。この場合、SFAの導入自体が間違いではなく、従来の営業を強化する改善であることは理解できても、全社の方針である技術革新への貢献は一切考えられていない場合、等)
 
 つまり、一丸となるべき「経営目標」に対して、自部門は関係がないので自分で別の改善をしますよ、と言っている様なものである。
 
 これをあちこちの部門が始めてしまうと、部門の目標と経営目標が一致せず、部門の内部に所属する人たちは、部門の目標を各々遂行することが第一義となり、部門間での協力は多少は取り付けたとしても、経営目標(⇒一番達成困難なものが多い)は、満たされるどころか、各部門の「漸次的改善」の後回しになってしまうのである。
 
 これにより、「社員がきちんと改善を図っている」にも関わらず、大企業病は当然のように発生する。言わば、この「漸次的改善」は、皮肉にも、大企業病を促進する「合併症」のような役割を果たしてしまうのである。
 
 自社の状況を見ていると、まさにこうした事例は山ほど見受けられる。
 
 必要なことは、経営の焦点を共有し、場合によってはそれについて社員自体が対話を行い、経営目標や経営戦略の意味を共有する必要がある。