フォロワーシップについて

 古今東西、リーダーシップに関する研究や見解などは、学者のみならずコンサルタントやジャーナリストなどからも、また経済・経営面のみでなく、伝統的な政治学から心理学や社会学なども大きく関連する領域である。
 人が社会・組織を形成して行動する以上、リーダーシップに関しての興味は尽きない。
 
 ハーバードビジネスレヴューの2010年2月号の論文(「頼れるフォロワー、困ったフォロワー」 B.ケラーマン)にもあるように、リーダーシップに関する研究は盛んだが、フォロワーシップによる研究は、確かにあまり盛んなようには思えない。しかし多くの経営者は、社員の生産性向上やイノベーションの発揮、モチベーションの向上に期待をしている反面、フォロワーに対して十分な分析や理解は不足しているように思う。
 尚、フォロワーとは、紛れもなく、企業の場合であれば一般の社員層に該当し、場合によっては中間管理職層も該当するものである。
 
 同上の論文を修正して、フォロワーシップの類型を試みることは、マネジメントの責任者のみならず、社員の側にも有意義な論議のきっかけになるかもしれない。
 
 下記に、フォロワーシップの類型としての図を示す。



 個の説明に入る前に、分類軸について説明する。

 縦軸は、「積極性の大小」を表す軸であり、社員の仕事に関する関与の度合い、モチベーション、等との関連性が深い。どちらかといえば、組織の属する個人の変数といえる。高ければ組織への関与度も高くなる。
 横軸は、「自立性の大小」を表す軸であり、社員がどの程度裁量があるか、トップダウンのみでなく自発的な発想が可能か、等の軸である。縦軸が「個」の変数なのに対し、横軸の変数は多分に「組織風土」に影響される。


●傍観者(積極性:低 自立性:低)
 
 「傍観者」は、積極性も低く、自立度も低い領域である。「与えられた仕事だけ、こなす」というのが、この領域のフォロワーであり、「中には与えられた仕事のうち、少しだけこなす」も入る。
 仕事は常に、上意下達で与えられるものであり、且つ自らの意見や思いなどが介入する余地が少なく、裁量もあらかじめ決定されており、ごく小さい。


●孤立者(積極性:低 自立性:高)
  
 「孤立者」は、積極性は低いが自立性は高い領域である。社員はある程度自らの思いや裁量への願望があるが、何らかの理由で積極性が低く、結果組織への関与度が低い。「孤立する」というのは本来的にはその“原因”があるはずで、組織風土やメンバーとの不仲、等そういう問題が積極性に影響していると捉えられる。ここには、例えば精神的にダメージを受けた社員なども該当する。


●軍人(積極性:高 自立性:低)
 
 「軍人」は、積極性やモチベーションが高い反面、自立性が低い。この場合のモチベーションは、外発的要因が強く、例えば役員などの直属組織のメンバーだったりする。この層は言い換えれば上層部へのコミットメントが高いフォロワーということも出来るため、将来の出世予備軍や中間管理職であるケースもある。このため、上層部からの命令には服従し、傍観者をうまく使いながら、一方でその存在自体が「孤立者」を生む原因にもなる。


●ナレッジワーカー(積極性:高 自立性:高)
 
 「ナレッジワーカー」は、モチベーションと自立性に富んだ性質を持つことは、言わずもがなではないだろうか。そしてこの場合のモチベーションとは、「軍人」とは違い、内発的動機を含んでいることが決定的に異なる。
 また、自立性については、企業内であれば、組織風土がそれを後押ししているケース(Googleや3M等の企業風土)や、専門職業(医者、弁護士、会計士、コンサルタント、芸術家、等)であることも、ナレッジワーカーの一要素となりうる。


 この4つの象限は独立しているようであるが、実は大きくは縦2象限、横2象限で意味を持つ。
生産性の高い社員は、「軍人」か「ナレッジワーカー」であることが多く、「傍観者」や「孤立者」は、組織の一員としては成果を上げているとは言いがたい存在である。つまり、「軍人」「ナレッジワーカー」を増やすことで組織の生産性に貢献する。
 一方、横の象限を半分に割ると、傍観者−軍人、と 孤立者−ナレッジワーカー という分類があるが、これは社員の成熟度を表すと見ている。「孤立者」も?と思われるかもしれないが、「孤立する」には何らかの理由があり、多くのケースで、組織内に多様性を見出すことが出来ず、結果そこから離れてしまったということを考えると、成熟度は以外にも高い。よく、「うつ等の精神疾患の社員には能力が高い人も多い」といわれるのは、そのためである。
 こうした観点で見ると、上意下達でしか動けない、傍観者−軍人、よりも、孤立者−ナレッジワーカー、の方が、変革や新規事業などの創出には向いている。
 もっとも、組織の態様が、上意下達でもっともパフォーマンスを上げる形態(ルーチン組織、ミッションクリティカルな組織、等)の場合には、必ず時もナレッジワーカーの集団がふさわしいとも言えない。
 つまり、その組織目的や目標に対して、どのような象限の人材が好ましいかは都度変わると言うことができそうだ。


 また、この象限は、一人ひとりがそこに属するというよりは、ある人が、特定の組織ならどこに属すか、或いは現時点でどこに属するか、はたまたどのミッションにおいてはどこに属するか、といった動的なものであることに注意が必要と考える。多様なナレッジを持つダイナミックな人間を、特定の型にはめることが正論であろうはずもない。
 
 人は常に「コンティンジェンシー」な存在であり、環境に適応することが出来る。
 どのような象限の人が多いかによって、その組織風土やリーダーシップについてがうかがい知ることが出来、本来はそうした風土やリーダーシップを、より良いものに高めることが、フォロワー類型の一番重要な点であると考える。

 
 リーダーシップや組織風土を考える場合には、その直接的な変数であるリーダーそのものよりも、組織のフォロワーの類型やその風土などの、ソフト面に注意を払うべきというのが、ここでの結論と考えている。