「比較優位論」にみる組織人事
一昔前は「異動する人はエリートコースね」、などとも言われたもの
ですが、今ではすっかり「異動したら損」と言われています。
これは一体本当なのでしょうか?
実はヒントは、「貿易の考え方」にあります。
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「比較優位」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?
例えば、こんな例を出します。
A国は先進国です。
X商品を100個作るのに、労働者は5で済みます。(生産性は20)
Y商品を100個作るのに、労働者は20です。(生産性は5)
B国は発展途上国です。
X商品を100個作るのに、労働者は10かかります。(生産性は10)
Y商品を100個作るのに、労働者は50かかります。(生産性は2)
どちらもA国で作った方が「生産性が高い」ということになります。
しかし、ここで注目すべきなのは、それぞれの国が持つ「資源」です。
資源(ここでは労働者)は有限であることを考えると、相手国と比較
して、より自国で効率の良いものを作ることに特化し、そうでないモノ
は相手に任せる方が全体の総和は大きくなります。
上記の場合には、A国ではY商品をつくり、B国ではX商品をつくると
いうことになります。
これを「比較優位論」と言います。提唱したのはリカードと言う人です。
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この『比較優位論』は、国際分業や貿易の有効性を表す理論として
有名ですが、同様に組織内の分業においても言えることが出来ます。
仮に凄く優秀なA君と、頑張り屋さんだけどイマイチなB君がいたと
します。二人とも、ITの技術者です。
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A君はベンチャー企業を立ち上げた経験もある人で、技術以外にも
営業やマーケティングも出来ます。数字の組み立てもできるスーパー
な人材です。
一方、B君は、入社時に営業研修したくらいで技術者まっしぐら、な
人ですが、A君のような先端のIT技術にはまだ少し疎いです。
A君は、自分のJAVA開発の知識を生かして技術者トップにと思って
いましたが、マーケティング部門に欠員が出来たため異動になりました。
B君は、JAVAの開発を一から学ぶことになりました。
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この異動は果たして正しいのでしょうか?
比較優位論からすると(実際の生産性にもよりますが)、非常に妥当
な判断と言えます。
組織全体の効率性を考えると、逆の配置換えはありえないし、マーケ
ティング部門に新規1名を入れるとコストがかかる。さりとてB君は頑張
り屋でいきなり解雇など出来ない。
組織全体の効率性はこうして図られることになります。
しかし、A君が「自分のキャリアの方向性が“技術者”」だとしたら
どうでしょう?
彼個人としては、今後技術者へ戻ることがなければ、機会を失ったと
言うことも言えるでしょう。
つまり、彼は、異動して損だった。となります。
自分より劣位にある技術者に開発を任せることは、少し納得し辛い
決定になるかもしれません。
これはあくまで一つの例ですが、組織が全体の総和で考える以上、
自身の異動は時として損になるケースが存在します。
では、同じ部署内ならどうなのでしょう?
実はこれも同じ理屈で、「比較優位」が異動者に損を与えるケースが
あります。
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A君はマーケティング部門に来ました。ベンチャー企業での経験から
その勘所は広く理解しています。他方、部門は細かく仕事が割り振ら
れており、個々に専門があるようです。
A君は期待されてきましたが、結局評価は下がってしまいました。
なぜなら、個々の専門を持ったマーケティング部門の人たちは、専門
的な分業体制であったため、比較優位の点で、A君は部内でも劣位
に立ったためです。
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この理論を見ると、大企業で生き抜く人材の要件は、
・専門を持つこと。それ以外はできないこと。
・異動は極力しないこと。
が、損をしない、出世をする近道になります。
何か気づきませんか?
それで、組織は世界と戦えるのでしょうか?
波乱の時代を生き抜くことができるのでしょうか?
もし、所属する組織がなくなったら、それでも良いのでしょうか?
中途半端なスキルで一生職につくことはできるのでしょうか?
その答えは、最後までお読みくださった方に委ねたいと思います。